1.自律運動系のモードスイッチング

 

1−1.化学反応と結合した運動の様相変化

 生体系は、化学ポテンシャル差を駆動力として動くことができます。図1−1は、酸塩基反応と結合した自律運動系の運動メカニズムです。ここで自律運動素子は固体の樟脳酸(R-(COOH)2)、水層は塩基(リン酸塩)です。自律運動素子が連続的に運動する場合、右側の図のように水面に樟脳酸の分子層を展開し表面張力を低下させ、素子の左右に生じた表面張力差が駆動力になります。それに対して、水層に塩基が存在すると、樟脳酸は溶解(R-(COOH)2 + 2HPO42- R-(COO-)2 + 2H2PO4-)して、表面張力は低下しないので、動くことはできません。ところが、水面付近の塩基濃度には限りがありますので、反応によって不足すると、樟脳酸分子層を展開して運動します。しかし運動で移動した先には塩基が待ち構えていますので、再び反応が始まり停止します。つまり運動と停止を繰り返す間欠運動が見られるわけです。つまり、間欠運動の周期は反応の時間に相当するのです。

 

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図1−1.酸塩基反応と結合した自律運動系の間欠運動メカニズム

 

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図1−2.塩基(Na2HPO4)濃度に対する運動の様相変化.塩基濃度が高くなると、連続運動は間欠運動にスイッチする.

 

1−2.ベンゾキノンを素子とした自律運動系:光制御、生化学系

 ベンゾキノン(BQ)は、電気化学的研究、光感受性、電子伝達系の生体内反応等、様々な観点から研究が行われている。本研究では、樟脳以外の系として、BQを自律運動素子として、光反応による運動制御や、生体内反応との結合による運動様相変化について実験と理論研究を行う。ここでBQの還元反応により得られるハイドロキノン(HQ)は水溶性であり、表面張力を低下させない、つまり、BQが駆動力となるが、HQは駆動力にならない性質を利用した自律運動系になる。

まずUV照射下では、BQHQに光反応するため、光照射すると「連続運動は間欠運動」に、「間欠運動はより間欠時間の長い運動又は停止」に、それぞれ変化する(図2−1)。

 

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図2−1.UV照射による自律運動系の様相制御.

 

次に、生化学反応との結合について、NADPHによりBQHQに還元させ、運動の様相を変化する。ここで、G6Pによる酵素反応により、酸化されたNADP+を再びNADPHに戻す、再生系の反応を用いた運動モードスイッチング系に成功した(図3−1)。

 

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図2−2.NADPH−酵素反応系との結合による様相制御.

(担当:松田唯)

 

1−3.ANA(航空会社でない)を用いた、自律運動のモードスイッチング

 本研究では、膜の分子構造に依存した自律運動の様相発現を行う。両親媒性分子である、acyl-p-nitroaniline(CnANA)は、表面圧(p)−分子占有面積(A)曲線に極大値と極小値を持つ(図3−1)。これは、極大値よりも低濃度側(=より大きいA)では、CnANAは可逆膜であるのに対して、それより高濃度側では、CnANA分子間相互作用により不可逆的な凝集膜になることが要因である。

 

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図3−1.(a)ANA膜圧縮下に樟脳円板を浮かべたときの円板の速さ,bC18ANAの表面圧(p)-分子占有面積(A)特性.

 

そして、この極小付近の濃度にあるANA単分子膜上に樟脳円板を浮かべると、極小値の両端にある界面ポテンシャルの壁を感じて、樟脳円板が往復運動を示した(図3−2)。つまり、自律運動を分子レベルから構築することに成功した。

図3−2.C18ANA膜上の樟脳円板の往復運動(1/3秒ごとの同じ空間の写真).

 

 畑さんは、履歴を使った運動について研究しています。乞うご期待。

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(自己駆動系の担当:佐藤、宮地、上田、畑、松田)